研究概要 |
細胞内鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンの合成は、そのmRNA5'非翻訳領域に存在する鉄応答領域(iron-responsive element,IRE)に特異的に結合する細胞質中のタンパク質(Iron regulatory protein,IRP)によって翻訳レベルで制御される。我々は、IRPのIREへの結合活性が酸素によって可逆的に変化することを見出した。本研究では、昨年度の成果を踏まえて、IRPとIREとの結合活性制御における鉄及び酸素の役割を明らかにする目的で研究を行い、以下のような結果を得た。1)鉄によるフェリチン合成の促進は、酸素濃度を高める事によって阻害される事が明らかとなった。この時、^<32>PでラベルしたIREをプローブとしてゲルシフトアッセイを行い、IRPのIREへの結合活性を調べたところ、鉄によるIRPの結合活性の低下は、酸素濃度の上昇に伴なって緩和された。2)鉄によるフェリチン合成の促進はスーパーオキシドアニオン発生試薬によって阻害されたが、過酸化水素では、阻害されなかった。同様に、IRPのIREへの結合活性の低下もスーパーオキシドアニオン発生試薬で緩和されたが、過酸化水素では緩和されなかった。これらの事から、鉄によるフェリチン合成の促進やIRPのIREへの結合活性の低下における高酸素の効果は、高酸素により生じたスーパーオキシドアニオンを介していることが示唆された。3)IRP結合活性におけるスーパーオキシドアニオン発生試薬の効果は、無細胞系では認められなかった。また、過酸化水素も無細胞系でのIRP結合活性に影響を与えなかった。4)これらの事から、鉄と酸素は、IRPのIREへの結合活性を逆方向に制御していることが示唆された。
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