本研究はアポトーシスやストレス応答に関与するJNKカスケードの制御機構の解明を目的として、本年度は、このカスケードの3つのキナーゼと相互作用するスキャホールドタンパク質、JSAP1の機能解析およびそのファミリー(JSAP2)の解析を行ったので、以下に示す。 1.マウスJSAP1の解析.(1)JSAP1のSEK1/MKK4とMEKK1の結合領域を欠失させたタンパク質は、構成活性型MEKK1によるJNKカスケードを介したアポトーシスを阻害する。(2)JSAP1をMEKK1とともに神経系に分化したP19細胞に過剰発現させると、JNKカスケードのシグナル伝達の促進が認められる。(3)JSAP1は、細胞増殖や分化のシグナル伝達に関与するMAPKカスケードの1つ、ERKカスケードのメンバーでcRaf1(MAPKKK)とMEK1(MAPKK)と相互作用することにより、ERKカスケードの活性化をネガティブに制御する。以上の結果より、JSAP1は、脳神経系においてJNKカスケードの3種のキナーゼを空間的に接近させ、シグナル伝達の場を提供するスキャホールドタンパク質であり、さらに増殖、分化に関与するERKカスケードを抑制する多機能なMAPKカスケード制御タンパク質であると考えられる。平成13年度には、神経系細胞のアポトーシスやストレスの際に流れるシグナル伝達においてスキャホールドタンパク質JSAP1の機能を検討する予定である。 2.マウスJSAP2の解析.(1)JSAPファミリーメンバーJSAP2は、脳組織だけでなくユビキタスに発現する。(2)JSAP2をMEKK1とともに未分化のP19細胞に過剰発現させると、JNKカスケードのシグナル伝達の促進が認めらる。以上の結果より、JSAP2は、さまざまな細胞におけるJNKカスケードのスキャホールドタンパク質である可能性が示唆された。平成13年度には、神経系細胞以外の細胞のさまざまなアポトーシスやストレスの際に流れるシグナル伝達における機能を検討する予定である。
|