転写調節因子NF-κBは、その阻害タンパク質であるIκBによって、核局在性シグナルがマスクされ、通常、細胞質において不活性状態にあるが、炎症性サイトカインなどの刺激により、IκBがリン酸化、ユビキチン化を経て、分解されることにより、NF-κBは核へ移行し、炎症、免疫などに関わる様々な遺伝子の発現を調節する。こうしたNF-κBの活性化をある種のアンチオキシダントが抑制することが、従来より知られていた。本研究では、このアンチオキシダントによるNF-κBの活性化の抑制機構について解析をした。最も強い抑制効果を示したのは、N-acetylcystein(NAC)で、腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン1(IL-1)によるIκBキナーゼの活性化、引き続き起こるIκBの分解を顕著に抑制した。さらに、NACはこれら炎症性サイトカイン刺激が惹起するp38やc-Jun N-terminal kinase(JNK)の活性化も抑制した.このことから、NACはこれら情報伝達系の比較的上流の過程を抑制している可能性が考えられる。さらに、興味深いことに、NACは12-O-tetradecanoyl phorbol 13-acetate(TPA)によるNF-κBの活性化、EGFによるP38、JNKの活性化を全く抑制しなかった.すなわち、NACは炎症性サイトカインによって活性化される細胞内情報伝達系を特異的に遮断している可能性が考えられた。次年度はこのNACの抑制効果の分子機構についてさらに検討する予定である。
|