研究概要 |
これまでに、ウシガエル卵由来レクチン(111アミノ酸残基)の290Kの温度で得られた1.14A解能のX線回折強度データおよび100Kで得られた1.06A解能のデータに対して結晶構造精密化を行い、全原子の異方性温度因子を決定した。さらに200K,180K,160K,および100Kでの原子分解能のデータの収集にも成功している。本報告書では、最も良質の100Kのデータを中心に報告することにする。 SPring-8のビームライン44B2は、1.06A解能にも達する極めて良質のものであった。収集された反射数は53,000以上(Rmerge(I)=0.042,multiplicity=3.9)で最外角シェルでも理論値の90%(Rmerge(I)=0.250,multiplicity=2.9)を超える数の反射を得ることができた。そのため、精密化において異方性温度因子を加味してもデータ/パラメータ比が4を超える。1.14A解能の構造を初期構造としてプログラムSHELXLで異方性温度因子も含めて精密化を行っているが、現在のところ、R-factorとfree R-factorがそれぞれ、0.1035、0.1401となっている(原子の結合距離の理想値からのずれ(rms)は0.008A。精密化に含めている原子の数は水素原子を含めて2,755個(非対称単位中に蛋白質1分子、緩衝液のクエン酸1分子、および水354分子を含む)であり、非対称単位のおよそ93%の体積を占める。差フーリエ図上の電子密度分布で0.432e/A^3(温度因子78.96の酸素原子の中心の電子密度分布の理論値に相当)を超えるのは6箇所しかなく、これ以上はほとんど水分子を拾い集めることはできない段階まで精密化が進んでいる。温度因子が低い場合には、個々の原子(水素原子は除く)に対応する電子密度分布が明瞭に分離している(原子分解能)ので精密に原子位置を特定することができる(Luzzati plotから評価した誤差は0.005A。したがって、温度因子の低い領域に対しては立体化学的制限を課さない最小二乗法による精密化も可能である。
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