蛋白質の大量精製技術の向上、網羅的結晶化法の普及、試料吹きつけ低温装置の市販化、および放射光X線の高輝度かなどのおかけで、蛋白質結晶の原子分解能(1.2Å超の分解能)のX線回折強度データを得ることもできるようになったので、次のようなことが可能となった。(1)非水素原子の異方性温度因子と水素原子を加味して結晶構造の精密化を行えば、最終的なR_<-factor>が10%を切ることもあり得る。等方的に精密化した場合と比べて、高分解能でのR_<-factor>が小さいので原子位置の誤差が非常に小さくなる。(2)差フーリエ図上に溶媒分子や乱れた構造のみならず、水素原子をも容易に見出すことができるようになる。蛋白質と直接水素結合で結びつけられていない多くの水分子を見出すことも可能となる。側鎖のみならず、場合によっては主鎖までも静and/or動的に乱れている構造を至る所に見出すことができる。乱れたアミノ酸残基の割合が優に10%を越えることもしばしばある。また、精密化の最終段階の差フーリエ図では±0.4eÅ^<-3>を越える残余のピークがほとんどなくなる。(3)温度因子があまり大きくない場合には、炭素、窒素、酸素原子を明瞭に区別することができる。すなわち、電子一個分の違いを判別することが可能となる。2種類の蛋白質から100Kの温度でX線回折強度データを収集し、原子分解能のX線結晶構造解析を行った。それぞれ完全行列最小二乗法による結晶構造の精密化に成功し、さらに、TLS解析を行い原子の運動を内部運動と外部運動とに分離した。
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