本年度は、立体構造が判明しているタンパク質で数多く見られるすべての金属イオン、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛イオンにおいて、それぞれのイオンがいくつのモジュールに配位するのか、及びそれぞれのイオンの配位部位に類似のモジュールが存在するのかを調べた。タンパク質における金属イオン配位子の今までの研究では、タンパク質における金属イオンの配位子は、アミノ酸配列上全体に散らばっていると考えられていた。しかし、多くのタンパク質で調べたところ、カルシウム、マグネシウム、亜鉛イオンにおいては、約75%の場合は配位子が局在していることがわかった。タンパク質のコンパクトな構造単位であるモジュールと金属イオン配位子の関係を見ると、金属イオン配位子は、ひとつないしは二つのモジュールに局在していることがわかった。これら金属イオン配位子を持つモジュールの立体構造を比較すると、どの金属イオンにおいても、類似立体構造をもつ金属イオン配位モジュールが存在することがわかった。各金属イオンを配位する類似立体構造のモジュールにおいて、それらのアミノ酸配列を比較すると、モジュール全体にわたって類似性が見られる場合と類似性が見られない場合とがある。モジュール全体にわたって類似性が見られる場合は、すでにアミノ酸配列のモチーフが報告されているが、モチーフによって推定できるタンパク質の金属配位部位は、立体構造解析によって判明している金属配位部位の約30%にすぎない。立体構造が類似でアミノ酸配列モチーフが見られない場合でも、金属イオン配位子となる残基は同一または類似残基であった。特に亜鉛イオンの場合はヒスチジンかシステインによって配位されている場合が約75%であった。ゲノム配列から予測される機能未知アミノ酸配列が大量にデータベースに存在することより、類似立体構造を持つ金属イオン配位モジュールのアミノ酸配列から何らかの共通性を見いだし、アミノ酸配列から金属配位モジュールを推定できるようにすることが次の課題となる。
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