・水和自由エネルギー計算理論、特に拡張Scaled particle理論、の確立を試みた。我々が高分子への拡張を行なった拡張Scaled particle理論であるが、高分子に特有の理論上の困難である、複数個の分子が蛋白質を構成している場合や蛋白質内部に水の入る空洞がある場合に、この理論を適応可能にすることを試みた。まず、最初に2サイト分子のサイト間距離を変化させた計算機実験としてモンテ・カルロ・シミュレーションを行なった。サイト間距離が1個のサイトの直経よりも同定程度かやや大きな(2サイトが1サイトをもつ2分子に分れた)場合でも、拡張Scaled particle理論の結果は計算機実験の結果とかなり良い一致をみた。今後は3サイト分子の場合や、分子会合で議論されるようなサイト間距離(間に溶媒分子が複数個入りうる)でも理論が良い結果を与えるように理論の拡張を試みたい。 ・拡張Scaled particle理論での水和自由エネルギー計算では、蛋白質の排除体積を微分幾何学の定理を用いて解析的に計算する部分がある。微分幾何学と計算幾何学との数学的関連を利用し、計算幾何学でのボロノイ多面体計算を用いてプログラムを高速化した。4次元空間での凸包問題(3次元の場合と異なり逐次添加法が高速となる)によりボロノイ多面体を計算するようにした。また、このボロノイ多面体を静電場計算での境界要素法に用いることに成功した。その結果、精度はある程度犠牲になるがこれまでの有限差分法によるボルンエネルギー計算に比べて10倍以上の高速化が達成できた。
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