(1) シアン結合型構造の2.8Å分解能での精密化 これまでに得られたシアン結合型ウシ心筋チトクロム酸化酵素結晶標品のX線回折データをもとに、7.0-2.8Å分解能での構造精密化を行った。その結果、現在までにR値17.5%、freeR値23.0%のモデル構造が得られている。両R値の大きさは以前に報告された完全酸化型構造のものとほぼ同等であった。 (2) シアンの結合様式、酵素の構造変化についての検討 観測データと分子モデルとの差の電子密度図からはFe_<a3>-Cu_B間にシアンの電子密度が見いだされた。シアン構造の精密化後の残余電子密度からは、結合様式としてFe_<a3>のみ、もしくはFe_<a3>、Cu_B両方へ結合している可能性が考えられた。現在、更に詳細な検討を行っている。タンパク質部分の立体構造は完全酸化型のものとほぼ同じであった。 (3) 高分解能構造を与える阻害剤結合型結晶標品の作成 一酸化窒素結合型結晶の作成のため、完全酸化型結晶を亜硝酸ナトリウムを含む還元剤溶液中に浸しキャピラリに封入した。十分にソーキングを行った後、結晶標品を液体窒素中で急速凍結させ放射光を用いてX線回折実験を行った。その結果、現在までに2.7Åを上限とした回折点が観測されている。 (4)酸素、阻害剤、水の透過経路の検討 チトクロム酸化酵素の立体構造をもとに溶媒分子との接触表面を計算した。その結果、酵素内部に酸素、阻害剤、水分子が存在することが可能なキャビティーが幾つか見いだされた。各々のキャビティーが配位子や水の透過経路をどのように構成しているのか調べるため、プローブをランダムウォークさせるシミュレーションを行っている。
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