光プロトンポンプ活性を持つ膜蛋白質バクテリオロドプシン(bR)の親水性表面にはCa^<2+>、Mg^<2+>等の二価カチオンが局在していることが知られており、これまでの固体高分解能NMRよる解析から、これらのカチオンは親水領域に比較的弱く結合し、3msより短い寿命で交換していることがわかった。生体膜(紫膜)中のbRをNMR緩和試薬である二価カチオンMn^<2+>存在下で固体高分解能^<13>C NMRにより観測することで、蛋白質親水部位由来のNMR信号を消去し、疎水性膜貫通部位由来の信号を選択観測することができる。この方法をアミノ酸選択的^<13>C標識、部位特異的アミノ酸置換と組み合わせることで、疎水性膜貫通部位に存在する、機能上重要なH^+輸送チャネルの立体構造を常温、生体膜懸濁液中のbRに関して解析することができた。二面角依存の化学シフト変化から、生理的条件に近い常温、紫膜懸濁液中のbRの基底状態での立体構造は低温の三次元結晶中のbRについてX線回折により報告されている構造と一部異なっていることがわかった。また、機能上重要なH^+放出サイトの一部をなすGlu204の変異による基底状態のbR中心部の立体構造への影響はX線回折では見出されないが、固体NMRでは大きな立体構造変化が検出され、これまでに報告されているbR中心部のAsp85とGlu204の基底状態におけるpKaカップリングのメカニズムを与えると考えられる。これらの、X線モデル構造と異なる構造および構造変化は、常温における熱運動に由来する時間平均された二面角の挙動が低温において静止した状態の二面角と異なることを示しており、常温、生理的条件における蛋白質の機能を理解する上で静的な構造情報に加え、これらの動的な立体構造の情報が必要であることが見出された。
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