本申請研究では、放射光Xを用いたX線回折・散乱と可視吸収スペクトルの時分割同時測定により、蛋白質の局所的状態変化と高次構造変化の時間相関を高い分解能で明らかにすることを目的としている。この目的のため、本年度は以下の研究を行った。 1.時分割X線回折測定に用いる新しい1次元ガスX線検出器(OD3・ロシアBINPとの共同研究)を、高エネルギー加速研究機構・放射光研究施設・BL15A(小角散乱実験ステーション)に導入し性能評価を行った。その結果、従来のガス検出器(PSPC・理学製)に比べ感度で2〜3倍、時間分解能で100倍以上(Δt〜10μ秒)の性能を有していることが確認された。 2.II(Image Intensifier)-CCD X線検出器を用い、バクテリオロドプシンの光励起後の構造変化に起因するX線回折像変化を10〜100msecの時間分解能で測定した。時間分解能制約から、試料を弱アルカリ条件にすることで活性中間体を長寿命化し実験は行った。この結果、X線用CCD検出器を用いることで、10〜100msecのイベントは十分観測することが可能であることが明らかとなった。 3.時分割同時測定用セル作成のため、本年度の予算でCCDステップスキャン可視分光器を購入した。当初予定していた、APD検出器と異なり、時間分解能は10msec程度ながら、多波長の吸光度変化の時分割測定が可能となった。 4.光受容膜蛋白質のバクテリオロドプシンと異なり、水溶性の光受容蛋白質であるPhotoactive Yellow Proteinの光反応過程で生じる構造変化を、中間体を安定化させることで(静的)X線溶液散乱によって明らかにした。 次年度は、2・3の結果を受け、バクテリオロドプシンの光反応過程で生じる変化をより詳細に観測する。また、1の新しいX線検出器を用い、1msec〜100μsecの時間分解能での時分割測定を試みる。これらの実験を通じて開発した、同時測定装置をPYPに適応し、水溶性蛋白質と膜蛋白質の比較を行い、蛋白質の光反応過程で生じる構造変化メカニズムを明らかにする。
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