光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトル法を用いて、光合成酸素発生マンガンクラスターの構造を調べた。本年度は、マンガンのヒスチジン配位子に焦点をあて、そのプロトン化構造や水素結合状態などを調べた。酸素発生系のS2中間状態とS1状態間のFTIR差スペクトルにおけるヒスチジンのバンドを同定するため、ホウレンソウの全^<15>Nラベル及びラン藻Synechocystisを用いたイミダゾール基のみの選択的^<15>N ラベルを行った。これらの^<15>Nラベルによる波数シフトから、1113cm^<-1>のC-N伸縮振動バンド及び2500-2850cm^<-1>のN-H伸縮振動上のフェルミ共鳴ピーク群がヒスチジン由来であることが示された。ヒスチジン側鎖のモデル化合物を用いた実験から、l100cm^<-1>付近のC-N伸縮振動の振動数及び重水素化シフトとヒスチジン側鎖のプロトン化構造との間には、一定の相関関係があることを見い出した。この関係を用いることにより、S2/S1スペクトルの1113cm^<-1>のバンドを示すヒスチジンはNπ位のみがプロトン化されている構造をとっていることが示された。また、>2500cm^<-1>のピーク群は水素結合したイミダゾールN-Hに特有なものであり、これらのピーク群の存在から、ヒスチジン配位子のN-Hが水素結合を形成していることが明らかとなった。
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