1.大腸菌細胞内におけるトランスポゼースによる環状IS1、IS3分子の切断、転移反応の解析:(1)環状IS3分子は、トランスポゼースによりその逆向き反復配列(IR)の3端にDNA切断が導入され、直鎖状分子に変換することを明らかにした。IR末端の変異はこの直鎖化を阻害し、また環状IS3分子転移反応も阻害した。この結果は、IR末端の塩基配列が末端でのDNA切断及びDNA鎖つなぎ換え反応に重要であることを示す。(2)環状IS1分子は通常の形状を持つIS1に比べてきわめて高い頻度で転移することがわかった。環状IS1分子はISの末端間に6〜9塩基対の介在配列を有するが、この介在配列の長さを長く(30〜40塩基対)した場合、転移頻度は通常のIS1と同レベルにまで低下した。通常のISと同様に、環状IS1分子はATに富む領域に多く転移しており、また標的配列の9塩基対を重複していた。以上の結果は、環状IS1分子が転移中間体として機能する可能性を示唆する。 2.大腸菌細胞内におけるIS3による融合体形成反応の解析:IS3による融合体形成反応を定量化する実験系を確立し、IS3が、従来は起こらないと考えられていた融合体形成を引き起こすことを明らかにした。融合体形成頻度はrecQ変異株中で上昇した。これは、融合体形成がRecQヘリカーゼ二より抑制されていることを示す。 3.IS1の転移に関与する宿主因子H-NSの解析:hns変異株中では、IS1の分子内転移、分子間転移の頻度が検出限界以下になった。また、野生型株ではトランスポゼースによるIR末端でのDNA切断活性を反映してSOS誘導反応が起こるが、hns変異株中ではこの反応が起こらなかった。以上の結果は、H-NSがIS1の転移反応の必須ステップであるIR末端でのDNA切断反応に重要な役割を果たしていることを示唆する。
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