大腸菌等の細菌細胞内において、終止コドンを持たないmRNAから生産される不完全なポリペプチド鎖には、trans-translationと呼ばれる最近明らかにされた機構により11アミノ酸からなる特異的な「Tag配列」が付加される。Tagの付加したポリペプチド鎖はプロテアーゼによって速やかに分解され、細胞から除去される。trans-translationにはSsrA RNA(tmRNA)と呼ばれる低分子RNAが重要な役割を果たすことが分かっていたが、その具体的な標的はこれまで同定されていなかった。 本研究ではプロテアーゼに耐性を示す変異Tag配列を付加することのできるSsrA-DDを構築し、Tagの付加したポリペプチド鎖を直接検出する型を確立し、それを利用した解析から、大腸菌のlactose repressor(Lacl)がtrans-translationの標的となること、それが「外界のlactoseに対する大腸菌の迅速な応答を保証する」という生理学的意義を持つことを明らかにした。また、LacIに対するtrans-translationは、LacIが自分自身のORFのすぐ近傍に存在するLac operator(O3)に結合することでlacI遺伝子の転写伸長を妨げ、不完全なlacI mRNAをつくり出すことにより起こることを明らかにした。さらにSsrA-DDを利用した解析等から、通常の研究室内環境で生育する大腸菌細胞内でtrans-translationが頻繁に起こっていることも明らかにした。
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