真核生物の細胞形態の制御や細胞質分裂には、アクチン細胞骨格が重要な役割を果たしている。しかし、アクチン調節蛋白質の細胞内における働きについては不明な点が多い。本研究では、分裂酵母を実験材料に用いて分子遺伝学、細胞生物学的手法を駆使して、この問題の解明に取り組む。また同時に、アクチン細胞骨格を制御するシグナル伝達経路について解析する。今年度は、分裂酵母のアクチン調節蛋白質Adf1とFim1について詳細な解析を行なった。生化学的解析から、Adf1はアクチン繊維の脱重合を促進するのに対して、Fim1はアクチン繊維を安定化すると同時に架橋する。蛍光抗体法による顕微鏡観察の結果、両蛋白質共に、アクチンバッチやアクチンリングに局在することが認められた。さらに、緑色蛍光蛋白質GFPと両蛋白質の融合蛋白質を細胞に発現して3次元リアルタイム観察を試みた結果、それぞれの細胞内局在がダイナミックに変動することが分かった。興味深いことに、Fim1の高発現によりAdf1の細胞内局在性は損失された。細胞内においてアクチン細胞骨格は、複数のアクチン調節蛋白質の活性のバランスを基にして成り立っているのかもしれない。既にGFPとは異なる励起波長を持つCFPやYFPと、両蛋白質の融合遺伝子を作製したので、これらを細胞内に共発現し、両蛋白質の挙動について同時に観察を行うことが可能である。さらに現在、細胞内のAdf1活性を任意に操作するために、PCRランダムミュータジェネシス法を用いてAdf1の温度感受性アリルのスクリーニングを進めている。また、英国のL.G.Sayersらとの共同研究により、分裂酵母のアクチン細胞骨格の制御に関与するシグナル伝達蛋白質Rho1によるPck2の活性化の作用機構を解明した。今後、Pck2がどのようなアクチン調節蛋白質の活性を調節しているかについて調べる必要がある。
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