DNA複製開始に必要とされるMCM蛋白質複合体は、様々なレベルでの活性制御を受けていると考えられているが、本研究においては細胞内局在の制御に焦点を当てて細胞周期との関連を調べている。 MCM蛋白質複合体は、出芽酵母においては複製終了後、染色体から遊離した後に核外へ輸送されることが知られていたが、その他の真核細胞においてはそのような挙動は観察されていなかった。本研究において、分化刺激によって細胞増殖が停止したMEL細胞で、MCM蛋白質複合体のサブユニットが核から細胞外に局在を変え、その後に消失するのが観察された。近年、増殖に関わる蛋白質が核から細胞質に運ばれた後分解する例がいくつか知られており、MCM蛋白質も同様の過程を経ていることを示唆している。MCM蛋白質の局在変化がどのように制御されるかを調べるために、そのサブユニットのひとつMCM3の核移行活性について解析した。核移行活性はHeLa細胞核とアフリカツメガエル卵抽出液を用いたIn Vitro系を用いて測定した。MCM3はC末端付近に塩基性アミノ酸に富んだクラスターを2カ所有し、これが両極性の核移行シグナル(NLS)として働くと考えられていた。しかし、予想されるNLS付近の合成ペプチドを用いて調べた結果、N端側の塩基性アミノ酸クラスターのみでNLS活性を有することが明らかになった。さらに、完全長のMCM3組み換え蛋白質はNLSを有しているのにも関わらず、In Vitro核移行系でほとんど核内に濃縮されなかった。N末端約500アミノ酸を欠失させた組み換え蛋白質では、活発な核内移行が見られたことから、N末端にNLSの活性を制御する配列、もしくは核外移行を促すNELが存在することが示唆された。
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