研究概要 |
細胞内シグナル伝達系が細胞内レドックスによる制御を受容することにより、レドックスが多様な細胞応答において重要な役割を果たしていることが明らかにされている。本研究では細胞内シグナル伝達系のレドックス制御の解明を目指した解析を行った。 1,NGFレセプター(TrkA)およびEGFレセプターのレドックス制御:TrkAおよびEGFレセプターの活性化が還元剤NACにより顕著に抑制され、逆に酸化ストレスによりその活性は亢進する。EGFレセプターの酸化ストレスによる活性化機構の解析の結果、酸化剤によるチロシンホスファターゼの失活がこの活性化に関与している事が認められた。一方、還元剤NACによりこれらのレセプターの活性化抑制には各リガンドがレセプターに結合した後の活性化のステップを抑制している可能性が示唆された。 2,還元剤NACによるShcのチロシンリン酸化:還元剤NACによりShcのチロシンリン酸化が誘導され、さらにGrb2との会合が誘導されることを見いだした。さらに各種Shc変異体を用いた解析により、Shc分子上の239番目240番目、および317番目のチロシン残基がGrb2との会合に関与することが確認された。 3,GTP/GDP交換因子Sosのレドックス制御:ウエスタンブロット法による解析の結果、細胞に酸化ストレスを負荷するとSos分子がジスルフィド結合を形成する事が見いだされた。 4,lkBキナーゼ(lKKa/b)のレドックス制御:lKKa/bを酸化剤で処理すると容易にこのキナーゼが失活する事が確認された。さらにこの制御に関与するシステイン残基の同定のために、部位特異的変異導入によりlKKa/b分子上の各システイン残基をセリンに置換した変異体遺伝子を細胞内で発現させたのち細胞をTNFで刺激し、各変異体タンパクを免疫沈降法により回収した。この分子の酸化剤に対する感受性を測定したところ驚くべき事にシステインをすべてセリンに置換した変異体においてもレドックスに対する感受性を示す事が判明した。
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