哺乳類のエンドサイトーシス後期過程の膜動態とそれを駆動する分子機構には不明な点が多い。これらを解明するために体細胞遺伝学的なアプローチは有力でありうるが、おもに変異株やその復帰変異体を分離分析するための有効な方法の欠如のためこれまで系統的に行われてこなかった。我々は、フローサイトメトリーにより表現型をダイレクトに解析し、それにもとづいて変異株を分離する方法を開発し、これを活用してエンドサイトーシス後期過程に体細胞遺伝学的アプローチを加えている。以前この手法を多段階変異株スクリーニングにおいて分析的に用いることにより極後期エンドソーム過程に変異を持つCHO株を得た。さらに、この方法をダイレクトに用いたセルソーティングにより変異株を分離し、得られた変異株の表現型ならびに体細胞遺伝学的解析をおこなった。変異株の分取過程を数理的にシミュレートすることで条件を最適化して、それにしたがって変異株の分離を進め、表現型の異なった後期エンドソーム過程に変異を持つ複数のCHO株を得た。そして、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子を薬剤耐性選択遺伝子として利用してハイブリッド細胞を選択する方法を用いて、フローサイトメトリーにより優性試験および相補性試験を行った。その結果、これらの変異株が、すべて劣性の変異を持ち、また複数の相補群に分類されることがわかった。異なる相補群に属する変異細胞は形態学的に明らかに異なる膜動過程に障害を持ち、また、同一の相補群に属していても、形態学的な表現型に認識可能な差異のある場合が存在した。これらの結果は、後期エンドソーム過程が、複数の相補群遺伝子の変異によって規定される他段階の膜動過程によって進行すること、また、それらの段階がさらに遺伝子機能の変異形態によって細分可能であることを示唆する。
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