我々の研究室では、出芽ホヤの芽体において様々な組織が成体体細胞の分化転換によって生じること、レチノイン酸が分化転換を誘導する内在因子であることを明らかにしてきた。本研究では、平成11年度に以下のことを明らかにした。 1.我々が出芽ホヤから単離したレチノイン酸受容体(RARとRXR)の機能解析を行った。in vitro転写/翻訳系で合成したタンパクを用いてゲルシフト解析を行い、ホヤRAR/RXRがヘテロ二量体を形成して特定の塩基配列に結合することを示した。またこの配列を調節領域に持つレポーター遺伝子および組織特異的エンハンサーの下流にRARとRXRをつないだエフェクター遺伝子を同時にホヤ胚に導入し、これをレチノイン酸処理することによって、ホヤRAR/RXRがレチノイン酸依存的な転写活性化能を持つ真の受容体であることを証明した。これは無脊椎動物で初の機能的レチノイド受容体の報告である。 2.我々はレチノイン酸の標的遺伝子をディファレンシャルディスプレイ法によって複数同定した。そのうち1クローンは、全長cDNAの構造解析から、N末端側に他のタンパクとの結合モチーフを多数持ち、C末端側にトリプシンに似たプロテアーゼ触媒ドメインを持つ複雑な構造のタンパク(TRAMPと名づけた)をコードすることがわかった。本研究では、TRAMP触媒ドメインのリコンビナントタンパクを作製し、出芽ホヤの囲鰓腔上皮(出芽のとき様々な組織に分化する多能性上皮)由来の株化培養細胞を処理したところ、その分裂・増殖を著しく促進した。市販のトリプシンでは細胞増殖促進活性はないので、これはTRAMPのプロテアーゼ機能とは別の活性と考えられる。 3.TRAMPおよびRAR、RXRのmRNAの発現を調べた。いずれの遺伝子のmRNAも、芽体において特定のタイプの間充織細胞で発現していることがわかった。
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