消化管の神経系は神経冠細胞由来である。神経冠細胞は消化管に入ると間充織内を移動し、消化管の外側で神経叢を形成する。神経叢は自律神経からなる特殊な神経ネットワークをつくり、平滑筋の動きを支配している。間充織のいろいろなところにある神経冠細胞が消化管の外側でのみ分化してくる機構については明らかでなかった。私は前に、消化管間充織の最も外側に分化してくる平滑筋の分化に、上皮および上皮の産生する分泌因子Sonic hedgehog(Shh)が関わっていることを明らかにした。本研究では、これらの因子が腸管神経細胞の分化にどのように関わっているのかを汎神経マーカーであるSCG10を用いて解析した。まず、神経叢の分化に対する上皮の影響を調べるため、神経叢が多く分化する砂嚢間充織を用い、上皮間充織再結合実験を行った。すると、上皮をどに再結合しても、神経細胞は必ず上皮の反対側の端でのみ分化することがわかった。また、間充織のみを培養すると神経冠由来の神経細胞の数が増え、その位置も間充織の全体に散らばるということもわかった。これより、最も外側に分化する神経叢もまた平滑筋と同様に、上皮にその分化を抑えられていることが分かった。さらに上皮のShhの活性を抑えると神経細胞が上皮の近傍で多数分化してくること、Shhを産生する細胞株が神経細胞分化に関して上皮と同様の活性を持つことなどから、神経細胞の分化を抑制する因子はShhと考えられる。BMP4は平滑筋よりも内側の間充織で発現し、その発現はShhによって誘導されていることが知られている。BMP4を間充織に強制発現させると、神経細胞の分化が著しく阻害された。また、BMP4の活性を抑えると、神経細胞が上皮の近くで分化することもわかった。これらの結果から、腸では上皮のShhが間充織にBMP4を誘導して神経分化を阻害することで、神経細胞が上皮から離れた外側に分化してくると思われる。
|