研究概要 |
Zic2はマウスZicファミリーの中でも、その発現が非常に早く始まるものの一つで、ES細胞においてもその発現が検出される。またE7.5の神経板の中では特に前脳に周縁部に強い発現が観察される。マウスZic2の役割を明らかにするために、Zic2変異マウスを作製した。この変異はZic2遺伝子の第一イントロンにネオマイシン耐性遺伝子を挿入したもので、時期、部位に関わりなく、Zic2の発現レベルが正常の20%まで低下している。この変異マウスに見られる発生の異常を検討した。神経管形成(neurulation)の異常。 変異Zic2のホモ接合体はすべて出生後数時間以内に死亡し、ヒトの開放性二分脊椎に似た異常を伴っていた。この異常は後神経孔閉鎖時にまでさかのぼることができた。正常マウス胚では胎仔令9.5日目に後神経孔が閉鎖するが、変異Zic2ホモ接合体では、この時点で後部神経管が外反しており、明らかに異常な形態を示している。神経管の中で背側ないし腹側に限局して発現するいくつかの分子マーカーはPax6,Pax3,Shhなどは本来背側、腹側となるべき部分で正しく発現しており、背腹軸にそったパターン形成の異常が後部神経管閉鎖不全の直接の原因で無いことを示唆している。 正常マウスでは、9.5日胚の前脳の正中部では将来の左右半球を隔てるくびれが認められるが、Zic2変異マウスこのくびれが認められない。これに対応して、正中部で認められるはずの細胞死も検出されない。また、本来正中部で発現しているはずの分子マーカーWnt3aの発現も検出されない。このあと、正中部のくびれは遅れて形成され始めるが、最終的に左右の半球を隔てる構造は不完全のままであった。このことは、前脳正中領域の部位特異性が確立が不完全であることを示す。これらの結果から、Zic2変異マウスはヒト全前脳症のモデルとなる可能性が考えられた。
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