本研究では、神経系に着目してlimkノックアウトマウスで見られる異常を形態・構造と、生理の両面から解析し、これにより神経系でLimkがはたしている役割を明らかにする事を目標としている。 Limk-1ノックアウトマウスは、limk-1遺伝子の第一エクソンにβガラクトシダーゼの挿入によって作製した。ホモマウスの脳の連続切片を作製し、海馬、扁桃体、大脳皮質などの発現場所を中心に形態の変化を正常マウスと比較したが、明瞭な差は認められなかった。Limkはアクチン細胞骨格系の制御因子の一つであることから、神経繊維の走向などにも異常がないかを、マーカーを用いて調べたが少なくとも成体においては特に異常が認められなかった。 limk-1が、視覚空間認知に異常を持つウイリアムズ症候群の原因遺伝子と考えられていること、マウスの海馬で非常に強い発現が見られることから、記憶の形成にるのではないかという仮説の基に空間記憶を試験するモリス水迷路実験を行った。この実験に向いているとされるC57BL/6の遺伝的バックグラウンドに統一し、同腹のlimk-1ホモマウス、ヘテロマウスと正常マウスをそれぞれ水迷路実験にかけた。プラットフォームへの到達時間、プラットフォームのある領域に存在する時間、スタートからプラットフォームまで移動に要した距離を測定した。統計的処理を行いそれぞれの遺伝子型で比較を行ったが、有意な差は認められなかった。 以上の通り、現在までにlimk-1ノックアウトマウスにおいて明瞭な異常が認められていない。
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