本研究は、神経障害時に新たに発現するセリンプロテアーゼ、ニューロプシンの発現、機能を検討したものである。 1.視神経、大脳皮質、海馬、脳幹、小脳切断によるニューロプシンmRNA発現 切断により、ニューロプシンmRNAの新たな発現が見られた。切断後12時間後にニューロプシンmRNA発現細胞が認められ、発現細胞数は2-4日後に最高となった。これに対し、切断を行っていない視神経等ではニューロプシンmRNA発現細胞は全く見られなかった。視神経切断後に抗ニューロプシン抗体を用いた免疫組織化学法により、ニューロプシン免疫陽性構造は細胞体とその突起に見られた。免疫電子顕微鏡法の結果、陽性細胞はオリゴデンドロサイトに特徴的な構造を持っており、陽性構造は細胞体及び近辺のミエリン上にみられた。 2.海馬へのカイニン酸投与によるニューロプシン発現 海馬へのカイニン酸投与により、海馬錐体細胞の特異的な細胞死が生じた。これに応じて、この周囲に新たにニューロプシンを発現する細胞が出現した。二重染色の結果、ニューロプシンmRNA陽性細胞はPLP mRNAを発現しており、オリゴデンドロサイトであることが明らかとなった。 3.ニューロプシンノックアウト動物でのミエリン変性 以上の結果より、ニューロプシンが脱髄に関与していることが強く疑われたため、ニューロプシンノックアウトマウスにおいて視神経切断を行った。切断8日後にこの視神経の微細構造を電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、通常の視神経の構造が切断により著しく変性した。ところが、ノックアウト動物でのミエリンの変性は野生型マウスの変性に比べ弱く、ミエリンの構造がよく保たれていた。 以上の結果より、ニューロプシンは神経軸索変性に伴いオリゴデンドロサイトに発現し脱髄に関与していることが明らかとなった。
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