本研究では、蛍光蛋白質GFP(green fluorescent protein)を利用した細胞標識技術を脳の切片培養系に応用し、脳の形成過程での細胞分裂や細胞分化に伴う形態変化を生細胞において連続的に観察する実験系を構築する。材料としては、研究代表者が長年その切片培養系の開発と応用を続けてきたラット及びマウスの小脳を用いる。本年度は本研究の後半として、新たなトランスジェニックマウスを利用した方法を開発するとともに、小脳形成における細胞間相互作用の動態解析を開始した。1.新たなGFP遺伝子発現法として、GFAPプロモーター制御下でGFPを発現するトランスジェニックマウスを導入した。このマウスから作製した小脳切片を顕微鏡下で維持し蛍光観察するための種々の条件検討を行った結果、前年度に明らかにした実験条件に加えて、切片に近接する実験器具の温度制御が特に重要であることを明らかにした。これにより、生きているバーグマン・グリア細胞やアストロサイトの形態変化等を連続的に観察することができるようになった。2.これらの方法を応用して小脳形成における細胞間相互作用の動態を解析することを目指して、Notch受容体や成長因子プレイオトロフィンが顆粒細胞の移動、プルキンエ細胞の発達、バーグマン・グリアの分化等に及ぼす影響の解析を開始した。これまでに、Notch受容体の活性化によりバーグマン・グリアの形態異常が生じることや、プレイオトロフィンのシグナル抑制によりプルキンエ細胞の発達が阻害されることを示す予備的実験結果を得ており、今後これらの変化の動的な解析を進める予定である。
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