研究代表者である亀山は大脳皮質における神経前駆細胞あるいは神経幹細胞の増殖停止と分化・成熟を制御する分子メカニズムを明らかにする目的で、神経分化に関与する転写制御因子の候補としてCCHCタイプZincフィンガー転写制御因子NZFファミリーに着目し研究を進めている。平成11年度までの研究でマウスで新規なNZF3のcDNAクローニングを行い、一次構造の解析と、神経系発生における時間的空間的発現様式を解析した。 NZF3の発現パターンの解析から、神経幹細胞が増殖を停止し神経分化が開始される時期とほぼ一致して一過的にその発現が強くなることが示され、それ故にNZF3は神経分化を正に制御するのではないかと推測された。これを検証するために、胚性腫瘍細胞P19をモデルとして用い、強制発現実験により解析した。P19はそれ自体未分化細胞として増殖するがレチノイン酸やDMSO処理により三胚葉性の多様な細胞に分化する。特にレチノイン酸及び凝集塊形成という2つの処理により神経細胞への分化が誘導される。 未分化状態のP19にNZF3を強制発現すると、レチノイン酸処理等を行わなくても高頻度に神経細胞が分化する事を発見した。すなわち、未分化P19細胞にNZF3を強制発現するとおよそ三日後から神経細胞様の突起を伸ばした細胞が高い頻度で出現し、それらは初期神経細胞の分化マーカーであるTuJ1陽性である。 このことは細胞外の分化誘導因子や細胞間相互作用を経ずにNZF3が働くことで神経分化が進行することを示している。現在、分化の引き金が引かれた後、成熟した神経細胞になれるのかという点を、過剰発現後長期間培養し神経伝達物質の発現を指標により詳細に解析を行っている。今後は培養神経幹細胞への過剰発現やターゲッティングマウス、トランスジェニックマウスを用いた実験系により、実際に生体で機能している状態により近い条件下でNZF3及び他のファミリー分子の機能を明らかにしていく計画を立てている。
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