新規の電位依存性ナトリウムチャンネルであるNaGは、一部の視床下部神経細胞、脳下垂体、一部の末梢感覚神経細胞、一部のシュワン細胞に発現する。本研究は、NaG遺伝子欠損マウスの表現型の解析を中心に進める。NaG遺伝子が発現する視床下部、脳下垂体は自律神経系の統御管理中枢であり、食欲、塩分摂取、飲水、性行動、体温調節、情緒一般の制御に密接な関係を持つといわれる。すなわち、遺伝子欠損マウスでは自律神経系の中枢制御が関与する特定の生理現象が欠落することが期待できる。本年度は、NaG遺伝子欠損マウスの行動生理学的解析、特に塩分摂取および飲水行動について集中的に解析を中心に進めている。塩分摂取および飲水行動に関しては、各種濃度の塩溶液の飲水量を計測した。マウスに対して飲水ボトルを2本提示し、一方を塩溶液、もう一方を純水にし、塩溶液に対する嗜好性を測定した。水分が充足している飼育状態では野生型マウスも遺伝子欠損マウスも0.3MのNaCl溶液以上濃い溶液になると摂取を避け始めた。ところが、同じ0.3MのNaCI溶液に対して、24時間の絶水処理を施すと、野生型マウスは高張化した体液を元に戻す必要があるため、高張塩溶液の摂取を避けて純水をより多く飲む傾向を示したが、遺伝子欠損マウスは絶水後も0.3MのNaCI溶液への嗜好性を全く変化させることはなかった。一方、総飲水量は野生型マウスと遺伝子欠損マウスでは差がなく、いずれのマウスも絶水後は絶水前に比べてより多くの水分を短期間に摂取していた。この結果は、遺伝子欠損マウスは塩分の検出機構あるいはその中枢での評価機構に異常が出ていることを示唆している。本研究結果は、脳神経科学の最先端1999(12月3日4日、名古屋国際会議場)で報告を行った。また同時に論文投稿を準備中である。
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