本研究は、脳内で神経の変性、脱落が起こり痴呆が生じた場合に、生き残った神経細胞を賦活化することにより新たに神経ネットワークを構築し、脳機能を回復させることを最終的な目的としている。それを可能とする因子として、神経突起伸展因子としてラットおよびマウスから単離したsproutinに着目して、1.ヒトのsproutin配列を同定する、2.特異的抗体を作作製し細胞内分布や機能を調べる、3.痴呆モデルマウスの脳内にsproutinを過剰発現させ神経変性に対する効果を検討する、を目的とした。 1.ヒトのsproutin cDNAの部分配列を単離し、現在解析中である。 2.抗体を用いない解析法として、transfectionによるsproutinの発現実験を以下の様に行った。ラットから単離したsproutin cDNA配列中、蛋白質をコードすると予測された領域にタグとなるFLAG配列を結合させ、ヒト神経モデル細胞のSK-N-SH細胞にtransfectionした。Sproutinを発現している細胞では、multipolarに突起を伸展させる細胞が見られたが、コントロール細胞ではそのような細胞は見られなかった。また、FLAGおよびMAPs、またはFLAGおよびリン酸化型neurofilament-Hに対する二重免疫染色により、sproutinが細胞質と神経突起部分に発現し、樹状突起マーカーであるMAP2の発現量を増加させることを示した。以上の結果より、sproutinは神経突起伸展、特に樹状突起の伸展を促進する因子であることが示唆された。 3.痴呆モデルマウスでの検討の前段階として、正常マウスにおけるsproutin mRNAの分布を調べた。sproutin mRNAは末梢臓器には発現しないが、脳にはubiquitousに分布していることが明らかになった。
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