研究概要 |
1)マウス精巣に発現するKir3.2チャネル分子の新規変異体(Molecular cloning and characterization of a novel splicing variant of Kir3.2 subunit predominantly expressed in mouse testis.Inanobe et al.、(1999),J.physiol.,521.1,19-30)。Kir3.2の点突然変異を有するマウス(weaver)では、神経細胞死によるパーキンソン病症候群様の症状だけでなく、精子形成不全に因る男性不妊の疾患を呈する。そのため、精巣におけるKir3.2の性状について検討した。その結果、精巣に発現するKir3.2はN末端が既知の変異体よりも短いアミノ酸配列を有しており、精巣内でホモメリックに存在していることが判った。このKir3.2変異体は精細胞のアクロソームに特異的に発現していたが、精細胞はweaverマウスで分化不全を示す細胞である。アフリカツメガエル卵母細胞を用いた発現実験により、新規Kir3.2分子はホモメリックなチャネルとして機能することが明らかとなった。そのため、この新規チャネル変異体は精細胞分化において何らかの生理作用を担っており、weaverマウスでは、その機能不全によって分化障害が起こることが推測された。 2)PDZタンパク質はKir3.2cにG蛋白質感受性を与える(Anchoring proteins confer G protein-sensitivity to an inward-rectifier K+channel through GK domain.Hibono et al.,(2000),EMBO J.,19,78-83)。発現実験系において、Kir3.2の一つの変異体Kir3.2cは細胞膜に局在するにも関わらず、G蛋白質に対して非感受性を示す。Kir3.2cのN、C末端が各々短いKir3.2変異体分子はチャネル活性を有することから、Kir3.2cはそのN及び、C末端によってG蛋白質に非感受性を示していると考えられていた。PDZ蛋白質はPSD-95,dlg,ZO-1に類似した配列を有する一群の蛋白質の総称である。これらPDZ蛋白質は他の蛋白質のC末端の特異的なアミノ酸配列と結合し、蛋白質の特異的な局在を指示することが知られている。 Kir3.2cのC末端にもこの配列が存在し、PDZ蛋白質(PSD-95やSAP97)が直接結合することが判っていた。(Inanobe et al.,(1999),J.Neurosci.,19,1006-1017)が、Kir3.2cのチャネル活性に対するこれらの効果は不明であった。Kir3.2cのチャネル活性をPSD-95やSAP97と再構成させると、両PDZ蛋白質はKir3.2チャネルにG蛋白質感受性を与えることが判った。この効果は、SAP97とKir3.2cとの直接的な結合だけでは不十分であり、SAP97のC末端側に存在するグアニル酸シクラーゼ様の構造が必須であることが明かとなった。この知見は、PDZタンパク質がチャネル分子の局在を規定するだけでなく、チャネル活性も修飾することを始めて示すものである。
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