PYK2は中枢神経系に高発現しているprotein tyrosine kinaseであり、様々な脱分極刺激や、種々のG蛋白共役型受容体刺激により活性化され、活性化されたPYK2はmitogen-activated protein kinase(MAPK)経路を活性化させる。PYK2は細胞膜からのシグナルを下流のMAPK経路に伝える中心的な役割を担っているが、PYK2からMAPK経路に至る経路は明らかにされていない。われわれはyeast two-hybrid systemを用いた研究により、PYK2と結合する新しいアダプター蛋白質PYK2-associated protein-1(PAP-1)を発見し、PYK2からMAPK経路へのシグナル伝達に関与する分子と考えて研究を行っている。現在までに(1)ヒト脳cDNAライブラリーから単離したPAP-1遺伝子の全塩基配列と、PAP-1のアミノ酸配列およびドメイン構造を決定した。(2)PYK2とPAP-1蛋白質を細胞に発現させて行った免疫沈降法により両分子が高親和性に結合することを確認した。(3)PAP-1の各ドメインのGST融合蛋白質を使った沈降法により、PAP-1のSH3ドメインとPYK2のC末端のproline rich domain2が直接結合することを確認した。(4)精製した6His-PAP-1蛋白質を抗原としてウサギ2羽に免役することによって抗PAP-1抗体を作製した。(5)ELISA法による解析では、この抗体の抗原特異性は非常に高く、神経細胞を使ったウエスタンブロッティング法による解析では、PAP-1は単一バンドとして確認された。(6)この抗体を用いて行った免疫蛍光染色と共焦点顕微鏡を用いた観察では、PAP-1は核周囲に存在し、Golgi装置を抗GM130抗体で蛍光標識すると両者の分布は部分的に一致した。PAP-1のドメイン構造の特徴と共焦点顕微鏡による観察結果から、PAP-1はGolgi装置に関連した働きを示す可能性が示唆された。平成12年度は、平成11年度の成果をふまえ、PAP-1によるシグナル伝達についてさらに研究を進める予定である。
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