中枢神経系グリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイトの終分化過程は、神経軸索からのJagged-Notchシグナル及びその下流に分化に対して抑制性に働くベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)型転写因子HES5の発現が誘導され成熟過程が抑えられる。このことは、オリゴデンドロサイトの成熟には、促進性のbHLH型転写因子による正の調節が必要であることを示唆していた。そこで、我々は、オリゴデンドロサイト前駆細胞株CG4のmRNAよりbHLH型転写因子に対するdegenerated PCR primersを用いて、促進性bHLH型転写因子であるMash1を逆転写-PCR(RT-PCR)クローニングすることに成功した。生後8日目のラット視神経からMashlmRNAを検出し、オリゴデンドロサイト初代培養細胞にも抗Mash1抗体陽性反応を検出したので、in vivoでもオリゴデンドロサイトの細胞系譜にMash1が発現していることが示された。また、オリゴデンドロサイト前駆細胞を高血清条件で培養するとアストロサイトヘと分化することが知られているが、この過程ではDNA結合活性を持たない抑制性のHLH型転写因子Id遺伝子ファミリーの発現が誘導されので、異なる機構でMash1の活性を抑制していることが考えられる。そこで、CG4細胞の核抽出液を用いてゲルシフトアッセイを行い、MashlのDNA(E-box)への結合活性を調べた。Mash1は未分化なCG4細胞ではMash1活性化されDNAに結合するが、アストロサイトや成熟オリゴデンドロサイトに誘導したCG4細胞では不活化されていた。これらの事実は、オリゴデンドロサイトの発生の少なくともある分化段階においてMashlが中心的役割を担っており、その活性をHES5で抑制すると未分化な状態が保持され、Id遺伝子ファミリーで抑制するとアストロサイトヘの分化を促すことを示唆しており興味深い。
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