多くの哺乳動物においてフェロモンを介した動物行動学的現象は数多く報告されているが、フェロモンがどのような分子でどのように認識されているかなど、分子生物学的機構は不明な点が多い。近年、分子生物学の発展により、ラットならびにマウスの鋤鼻器よりフェロモン受容体の候補がクローニングされた。現在、構造の異なる2つのグループのフェロモン受容体が報告されており、1つのグループは、匂いの受容体に構造が類似しており、もう1つのグループは、代謝型グルタミン酸受容体に構造が類似している。後者のグループに属するVR1ならびにVR4を特異的に認識する抗体の作製を試みた。VR1ならびにVR4のC-末端と同一のペプチドを合成し、それらを抗原としてウサギに免役することによりポリクローナル抗体を作製した。作製した抗体を用いて、マウス成体の鋤鼻器を免疫染色したところ、それぞれの抗体は鋤鼻器の神経細胞を特異的に染色し、また、その神経細胞は鋤鼻器の基底部に局在していることが明らかとなった。一方、これらの抗体によるマウス鋤鼻器における陽性反応は、マウス胎仔では観察できず、出生後、哺乳されたマウスの仔では陽性反応が観察できた。出生後すぐのマウスは、目が見えず耳も閉じており、外界からの情報収集は主に匂いまたはフェロモンに依存している。特に出生後すぐの仔は、匂いまたはフェロモンによって母親を認識し、母親の乳首を探索し、哺乳しなければならない。哺乳後、VR1ならびにVR4の発現が誘導されることは、それらがフェロモン受容に関与していることを示唆している。
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