研究概要 |
ディファレンシャル解析に用いる活性型CaMキナーゼIIおよび阻害ペプチドの発現誘導は、既存のキノコ体特異的なGAL4系統でなく、CaMキナーゼII本来の発現を再現するGAL4系統で行うことが望ましい。そのためCaMキナーゼIIIプロモーターを用い、dCaM KII-GAL4導入体を樹立した。リン酸化カスケード下流因子同定のための基礎データとなるCaMキナーゼII本来の発現を正確に把握するため、dCaM KII-GAL4によるレポーター発現の解析を行い、次の点を明らかにした。1.核移行型lacZレポーターを用いた共焦点多重断層撮影により、脳全体での発現分布を一細胞レベルで3次元的に明らかにした。その結果、dCaM KII-GAL4はキノコ体だけでなく食道下神経節や正中部上方など広く、しかし特異的な細胞群で発現した。2.dCaM KII-GAL4はキノコ体のKenyon細胞で、神経細胞マーカーのelav-GAL4より少ない選択的サブセットでのみ発現した。キノコ体ローブではαとβに強く、γで弱く発現したが、α'とβ'には発現しない。このことから、CaMキナーゼIIはキノコ体ではα,βそしてγに軸索を伸ばすKenyon細胞で特異的に発現すると考えられた。3.FasII抗体との二重染色の結果、両者のキノコ体ローブでの発現特異性は良く一致した。最近、神経-筋接合部においてCaMキナーゼIIがDisc Large(DLG)をリン酸化してその局在を制御することが報告された。DLGがFasIIと結合してシナプスへの局在を制御すること、またFasIIがシナプスの発達、可塑性に関与することは既に報告されており、神経-筋接合部で示されたCaMキナーゼIIとFasIIのシナプス可塑性に関わる機能的な関係が、記憶に重要な役割を果たすと考えられるキノコ体の特定のローブで採用されている可能性が考えられた。
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