中枢神経系ニューロンが情報伝達の方向に従い正しいシナプスを形成するには、個々のニューロンの形態に正しい細胞極性が生じる事が不可欠である。本研究は中枢神経系ニューロンの細胞極性形成におけるWntシグナルの役割を明らかにすることを目的として出発した。昨年度までの研究で、Wnt7bおよび受容体候補分子Frizzled、細胞内伝達因子Dishevelledが大脳皮質、小脳皮質の特定の層で特異的に強い発現を示す事が明らかになった。FrizzledおよびDishevelledには後シナプス膜に特異的なPDZ領域が存在し、シナプスにおいて何らかの役割を担う可能性がある。そこでこれらのタンパク質の細胞内局在を多重標識免疫蛍光法で解析したが、シナプスにおける局在は確かめられなかった。またこれらの分子を解離培養した小脳顆粒細胞に強制発現させたが、形態分化に対する影響は見られなかった。今後はWntシグナル分子群を発現するニューロンのうちより細胞形態分化が明瞭な大脳皮質や海馬のニューロンを用いて同様の実験を行い、細胞極性形成への影響を定量的に解析する予定である。 一方でニューロンの極性化を司るもう一つの候補分子として転写因子Pax6の機能を解析した。Pax6変異動物の小脳顆粒細胞の形態を観察したところ、双極性の軸索形成が阻害され、細胞が多極化していた。また成長円錐が肥大し、細胞骨格編成系に異常があること、この異常はアクチン骨格再編成を制御する低分子量GTPase Rho/ROCK伝達経路とは独立である事が明らかになった。今後Pax6の下流で発現を制御される分子の探索を行う予定である。
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