物体の形を視覚的に認識する腹側視覚経路の最終段階に大脳皮質下側頭葉TE野は位置している。TE野の神経細胞は、特定の複雑な視覚図形に選択的に反応することが知られている。しかしながら、TE野細胞の複雑な視覚刺激に対する反応選択性の形成機構については全く明らかにされていない。そこで本研究ではTE野への入力層である4層と、出力層である2・3層から活動を記録して、各層がどのような視覚刺激の特徴に感受性を持っているのかを明らかにすることを試みた。これまで、3匹のサルを用いて、2・3層から186個、4層から73個、細胞活動を記録した。2・3層の細胞と4層の細胞では、自発発火の程度、刺激により誘発された反応強度に有意な違いはなかった。また、視覚刺激に対する選択性の幅にも、有意な違いが見られなかった。しかしながら、刺激セットのなかで、層により視覚刺激に対する好みに、違いが観察された。入力層に近い4層の細胞は、単純な形を組み合わせた視覚図形に良く反応する傾向にあったが、2・3層の細胞は顔などの実物体の写真に良く反応する傾向が合った。現在4匹目のサルについてもデータを解析中である。また、神経細胞間の機能的結合について相互相関解析法を用いて解析したところ、良く似た視覚刺激に反応する神経細胞間で機能的結合は頻繁に観察された。以上の結果から、比較的単純な形の視覚情報が下側頭葉皮質TE野に入力され、隣接した細胞間の総合作用により、さらに複雑な視覚パターンに対する選択性が形成されていることが示唆された。
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