研究概要 |
本年度は、線条体が順序運動の学習にどのように関与するのかを明らかにするために、その出力を担う投射細胞(PANs)および介在細胞(TANs)の活動を、複数のボタン押しからなる順序運動課題を用いて調べた。 動物にはある特定の順序からなる視覚誘導型の3回のボタン押し課題(Learned sequence;LS)を学習させ、細胞の活動を記録する場合には、このLSと新たな順序からなる課題(New sequence;NS)を行わせた。LSにおけるボタン押しの反応時間は学習3週目までに大きく短縮し、その後数週間を通してそのばらつきも収束した。LSを遂行中のPANsの活動はボタン押しや報酬の水をなめる口の運動と相関のある活動を示すもの(実行型,24.1%)と、ある特定のボタンを押すときにのみ強い放電を示すものや、"2番目"など特定の順序のボタン押しに限って強く放電するものなど、いわば運動の手続きに強く関係するもの(手続き型,41.6%)が記録された。またこれら2つのタイプの細胞が記録される割合は学習の進行に伴って変化した。実行型の細胞は、学習第1週は53.3%であったものが次第に減少し、第18週では25.0%であった。それに対し、手続き型の細胞は第1週の33.3%から次第に増加し、18週目では50.0%を占めるようになった。一方TANsは、第1週目では課題の最初の手がかり刺激であるLEDの点灯に対して応答を示すものが48.1%存在し、第3週目までに84.2%まで増加したあと18週目までこの傾向は維持された。 このような線条体の細胞の数週間にわたる活動の変容は、運動手続きの学習過程を反映していると考えれられ、運動の制御に関わる細胞と順序の制御に関わる細胞の両者が、学習した順序運動を予測的にスムースに行うことを可能にすることを強く示唆している。
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