苦味物質の化学刺激は舌上の味細胞で受容され、電気的応答へと変換される。その情報変換機構には細胞内二次伝達物質が介在すると従来考えられてきた。しかし本研究では、苦味物質によって直接開口するチャネルの存在を明らかにした。これは苦味応答において従来全く検討されてこなかった経路であり、新しい苦味情報変換機構に関するチャネルとして注目される。 本年度では、ウシガエルの味細胞から剥離したoutside-outパッチ膜から苦味応答電流を記録した。細胞内側の溶液に二次伝達物質やその前駆体類が存在しない条件で、苦味物質であるキニーネをパッチ膜に投与したところ濃度依存的に陽イオンチャネルが活性化するのが確認されてた。さらに、キニーネとは化学構造の全く異なる苦味物質であるデナトニウムでも同じ単一チャネル電流値をもつ応答がみられた。従来の苦味応答機構の仮説ではGタンパク質が必要だとされていたが、Gタンパク質の阻害剤・活性化剤を細胞内側に添加した条件でもチャネルの活性化に変化は認められなかった。また、細胞内側に添加したキニーネは有効でなく細胞外側から刺激した場合にのみチャネルの活性化がみられた。これらの結果より、本研究でみられたチャネルの活性化には細胞内二次伝達物質は必須ではなく、細胞外側からの苦味刺激によりチャネルが直接活性化すると考えられた。 パッチ膜で記録されたこのチャネルの特性を調べ、whole-cellでのノイズ解析などによって得られたチャネル特性と比較した。苦味物質濃度依存性、イオン選択性、単一チャネルコンダクタンス、および細胞外Caによる苦味物質依存性と単一チャネルコンダクタンスに対する影響について検討したところ、これら全てにおいて同じチャネル特性がみられた。この結果からパッチ膜で発見された苦味物質で直接開口するチャネルと同じチャネルが、味細胞レベルでも同様に機能していることが示された。
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