クロスブリッジによる骨格筋活性化機構のうち、特に低イオン強度での活性化について、活性化の作用部位を検証した。低イオン強度による活性化が、周囲の結合水およびアクトミオシン表面の大きな構造変化に由来することが示唆された。また、この機構に二価陽イオンが関与することが確かめられた。 1.リン酸アナログ解離速度の定量 イオン強度変化(0.01〜0.2M)に伴うリン酸アナログ解離速度を定量した。イオン強度を下げるにつれて、筋活性化の程度は急激に増大し、また二価陽イオン(Mg^<2+>、Ca^<2+>)はこの活性化を可逆的に抑制した。 2.赤道反射によるフィラメント間隔の測定 イオン強度を変化(0.01〜0.2M)させた溶液中で赤道反射を測定した。イオン強度を下げると、0.06Mまではフィラメント格子間隔は狭まったが、それ以下では逆に増大した。また、二価イオン結合タンパクであるトロポニンCを除去した標本から、SPring8のシンクロトロン放射光により子午反射を含めた詳細な二次元回折像をとることに成功した。 3.^1H-NMRによる筋フィラメント間の水^1Hの緩和時間の測定 NMR装置(Varian Gemini2000BB)にて、スキンドファイバー内水^1Hの横緩和時間を測定した。種々のイオン強度にファイバーを平衡させ、キャピラリー内でCPMG法により測定を行った。横緩和時間はイオン強度の減少に伴い単調増大し、活性化に伴う結合水の減少が示唆された。フィラメント格子間隔のふるまいはリン酸アナログ解離速度および横緩和時間のそれとイオン強度0.06Mで乖離し、活性化や結合水減少の原因がフィラメント格子間隔の減少に伴う二次的なものだけではなく、広くアクトミオシン表面および周囲の水構造変化を伴うものであることが示された。
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