Zitterラットは、中枢神経系における空胞変性とミエリン形成異常を呈する。昨年度までに、原因遺伝子であるzitter(zi)を含む約500kbの物理地図を作製し、さらに、物理地図上のAttractin(Atrn)遺伝子が、zitterラット脳では、著しくその発現が減少していることを見い出した。今年度は、zitterラットにおけるAtrn遺伝子の変異の検索、Atrn遺伝子導入ラット作製による回復試験を行った。 正常対照ラットの脳において、Atrn遺伝子は9.0kbと4.4kbのmRNAとして発現していた。ラット脳cDNAライブラリーから全長Atrn cDNAをクローニングした。9.0kbのmRNAは膜貫通ドメインを持つ1432アミノ酸長のタンパク質(膜型アトラクチン)を、4.4kbのmRNAは膜貫通ドメインを持たない1275アミノ酸長のタンパク質(分泌型アトラクチン)をコードしていると予測された。次いで、Atrn遺伝子のエクソン・イントロン構造を決定し、ラットAtrn遺伝子は約120kbにわたる29のエクソンからなること、また、エクソン25でのalternative splicingにより2種類のmRNAに転写されることを明らかにした。zitterラットではイントロン12のsplice donor siteに8塩基対の欠失があり、この欠失がzitter突然変異と考えられた。 Atrnの変異がzitter突然変異であることを確定し、また、両転写産物のうちどちらがzitterラットにおけるミエリン形成不全に係わっているのかを特定するために、正常膜型および分泌型アトラクチンを導入遺伝子として持つzitterラットを作製し、その表現型を観察した。その結果、膜型アトラクチンはミエリン形成不全と空胞変成をレスキューしたが、分泌型はしなかった。 以上の結果より、膜型アトラクチンは中枢神経系のミエリン形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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