本研究では、荷電を有するブロック共重合体と生理活性ペプチド(酵素)の間の水溶液中での静電相互作用を利用してポリイオンコンプレックス(PIC)ミセルを調製し、その酵素デリバリー用材料としての機能評価を行うことを目的とする。PICミセルは、その内核に生理活性ペプチドを内包し、その周囲を外殻を構成する高分子鎖が覆うことによって保護層の役割を果たすため、生理活性ペプチドの実用化において最も問題となっている血液中での不安定さを改善することが期待できる。 本年度は、モデルペプチドとして、その構造や酵素活性の機構が明らかとなっている卵白リゾチームを選択した。卵白リゾチームは生理的pHでは正に帯電していることから、荷電を有するブロック共重合体としてポリエチレングリコールとアニオン性であるポリアスパラギン酸のブロック共重合体(PEG-p(Asp))の合成を行った。引き続いてその形成の化学量論性及び粒径・内包数等の物理化学的諸特性を動的・静的光散乱測定により評価した。その結果、リゾチームとPEG-P(Asp)からのPICミセル形成は、リゾチームが過剰な混合比では、協同的な会合体形成をするのに対し、PEG-P(Asp)が過剰な混合比では、非協同的な形成挙動を示すことが確認された。また、非協同的な形成挙動を示したPEG-P(Asp)が過剰な混合比では、極めて狭い粒径分布を維持したまま平均粒径がPEG-P(Asp)比率の増大に伴い増加することが動的光散乱測定から確認された。さらに、この粒径増加を示す混合比において、動的光散乱測定によりリゾチームの内包数を評価した結果、粒径増加にも関わらず及び内包されたリゾチームの酵素活性を確認され、粒径増大は外殻を構成しているPEG連鎖の密度が増加することに伴い、より伸張したコンフォメーションとるためであることが示唆された。
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