今年度は、リン酸緩衝液(pH7.4)中におけるin vitro長期分解試験を終えたポリ(L-乳酸)(PLLA)試料に対し、材料レベルでの分解挙動解析を目的として、in vitro分解による材料形態の経時変化をSEMおよび光学顕微鏡観察により、表面状態の経時変化を接触角測定により、および力学的特性の経時変化をオートグラフ(引張り試験器)により評価した。得られた結果は、以下の通りである。 (1)リン酸緩衝液中でのPLLA試料の加水分解は、表面からではなく、材料全体で進行する(塊状分解機構)ため、結晶領域と非晶領域中の分子鎖の加水分解性の差異による表面での構造形成はSEM観察では認められなかったが、偏光顕微鏡観察結果より、多くの試料では、加水分解の結果、球晶中の明暗のコントラストが低下した。このことは、結晶領域をつなぐtie chainを含めた非晶領域中の分子鎖が優先的に分解していることを示している。 (2)材料形状を維持している限りにおいて、PLLAの加水分解に伴う有意な水に対する接触角測定低下は起こらなかった。このことは、分解が塊状分解機構により進行する場合、接触角は、分解の指標にならないことがわかった。 (3)加水分解に伴う力学的特性は、結晶化度の高い試料ほど低下までの誘導期間が短く、最も速く0に近づいた。これは、完全非晶化試料中にあるようなフリーな非晶領域の含有の有無に拘わらず同じ傾向を示した。これは、結晶化度の高いPLLA試料ほど、加水分解に対して触媒作用を持つ末端カルボキシル基が非晶領域に濃縮されるため、そこでの加水分解が促進され、力学的特性が速く低下すると考えられる。
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