研究概要 |
現有の原子間力顕微鏡に改良を施し,関節軟骨の力学性能計測を生理食塩水中で行うことが可能なシステムを完成させた.変形性関節症モデル膝を作成するために,前十字靭帯切離法を家兎の右膝に適応した.処理後は飼育ケージ内で飼育し,12または24週後に膝関節を採取して試料とした.試料の周囲軟組織を切除して振り子試験を行い,摩擦係数を測定して潤滑性能の指標とした.その後,軟骨の摩擦部分をメスで摘出し,原子間力顕微鏡にて形状を観察した後に表面粗さを求めた.さらに,原子間力顕微鏡で軟骨の押し込み試験を行い,剛性を求めた. 健常膝に比較して変形性関節症膝の摩擦係数は有意に増大し,変形性関節症発症に伴って潤滑機能が低下することが確認された.表面観察の結果,健常軟骨では高さ2μm程度の突起を有するゲル状物質が多く観られた.一方,変形性関節症膝ではゲル状物質が減少していた.また、変形性関節症膝では健常膝に比べて表面粗さが有意に低下し,剛性は有意に増大していた. 健常関節で多く見られた軟骨表面のゲル状物質は,関節液の見かけの粘度を増大させ,関節の潤滑機能を高めていると考えられる.逆に,変形性関節症ではゲル状物質が減少・消失して下層に位置する軟骨表面が部分的に露呈したため,剛性が高まるとともにスクイズ膜による弾性流体潤滑性能が低下して,摩擦係数が増大したと考えられる.以上から,変形性関節症における潤滑性の劣化には,軟骨表面のゲル状物質の減少・消失が関与していることが示唆された.
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