人工肝に最も適した細胞は正常ヒト肝細胞であるが、長期間、容易に継代培養することは現在のところ困難である。我々は、ヒト胎児肝細胞にSV40 LT抗原を導入することによりヒト不死化肝細胞(OUMS-29)を樹立した。OUMS-29細胞は無限増殖能を有し、無血清培地で培養可能である。さらには、アルブミン、トランスフェリンなどの肝特異的蛋白質の産生、NADPH-cytochrome c reductase、P450 1A1、1A2、2E1、3Aなどの薬物代謝酵素の発現誘導が認められる。本研究では、OUMS-29細胞を人工肝に応用するためにさらなる肝特異的機能の亢進を目指した。 肝特異的遺伝子の発現には肝臓に豊富に存在する種々の転写因子群が関与していることが知られている。このため、ノザンブロットによりこれらの転写因子群の発現を調べたところ、OUMS-29細胞ではHNF4αの発現が著しく減少していることが認められた。そこで、RT-PCRにより全長のヒトHNF4α遺伝子をクローニングして発現ベクターを構築した。そしてOUMS-29細胞にヒトHNF4α発現ベクターを導入することにより、ヒトHNF4αタンパク質を安定に発現する細胞株(OUMS-29/HNF4α)をクローニングした。この細胞株は、核でHNF4αを顕著に発現しており、かつ野生型のHNF4αと同様のDNA結合活性を有していた。さらには肝特異的遺伝子である血液凝固X因子、アポリポタンパク質AI、CII、CIII、α1-アンチトリプシン、およびHNF1αなどの発現が認められるようになった。このことから、ヒトHNF4αを導入することによりOUMS-29細胞の肝特異的機能が亢進することが明らかになった。
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