研究概要 |
本研究は,壁せん断応力がどのようなメカニズムで内皮細胞の物質輸送を制御しているかを把握することを第一の目的とする.内皮細胞を介した物質輸送が細胞の代謝エネルギを利用していること,さらに細胞の代謝エネルギがせん断応力の影響を受け変化することから,細胞内エネルギが物質輸送の制御に関連があると考え,内皮細胞がどのように壁せん断応力を感知し情報をミトコンドリアに伝達するかを把握する.具体的には,壁せん断応力を負荷した細胞のミトコンドリア膜電位と細胞内カルシウムイオンとの関連を調べる.第二の目的として実際の生体内の流れを反映する第一段階として本研究では2枚の平行平板の間に段差を設け、その間に流体を流し段差後流で剥離流れをつくる.この剥離流れの特徴的な領域(逆領域や再付着点)において内皮細胞の物質輸送能変化及びミトコンドリアを介した制御機構に関して調べる. 本年度は,剥離流れ場における内皮細胞のアルブミン取り込みの測定をおこなった.その結果,壁せん断応力が小さくかつせん断応力勾配が大きい再付着点や淀み域において,細胞は比較的丸い形態をし,ランダムな方向を向き,アルブミンの取り込みは増大した.一方,壁せん断応力が大きくかつせん断応力勾配が小さい逆流域や発達域においては,細胞は主流方向に配向した細長い形態をし,アルブミンの取り込みは減少した.以上の結果より,流れ場の違いによる壁せん断応力やせん断応力勾配が細胞の物質取り込み機能を変化させることが新たに分かった. 今後は,内皮細胞がどのように壁せん断応力を感知し情報をミトコンドリアに伝達するかを把握するために,壁せん断応力を負荷された細胞のミトコンドリア膜電位と細胞内カルシウムイオンとの関連を調べる予定である.
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