これまでに当研究室では、側鎖に核酸塩基であるウラシル基を有するPoly(6-(acryloyloxymethyl)uracil)(PAU)が、低温沈澱・高温溶解を示すことを明らかにしてきた。核酸塩基は、生体内において水素結合の形成と解離を行なっていることから、本研究では、生理条件下でウラシル基と塩基特異的な水素結合を形成する核酸分子をPAU水溶液に混合し、その透過率の温度依存性を測定して、PAUの相転移挙動の特性を調べることを目的とした。 リン酸緩衝溶液(pH7.4)を用い、PAU水溶液、及びPAU/Poly(adenylic acid)(PolyA)混合水溶液の透過率を測定した。PAU水溶液は低温白濁・高温透明の温度依存性を示した。これはPAU水溶液が、低温においてはウラシル基間のコンプレックス形成に基づく脱水和を起こし、高温ではそのコンプレックスが解離し、水和したためである。一方、PAU/PolyA混合水溶液は低温においてもPAU水溶液に比べ透過率が高く、より高い溶解状態を維持した。これはPolyAがアデニンを有するポリマーであり、そのアデニンとウラシルが相補的な水素結合相互作用を起こすとともに、高分子コンプレックス全体が、PolyAのリン酸基により高い親水性を保持し、溶解状態を維持したものと考えられる。 また、ポリアクリルアミド(PAAm)をPAUと混合したリン酸緩衝液の透過率測定も行なった。透過率変化の温度依存性は、PAU単独水溶液と比較してより大きく、急激な透過率変化を示した。このことは、PAUとPAAm間で水素結合性高分子間コンプレックスを形成して沈澱を起こし、温度上昇に伴って、ジッパー効果により急激なコンプレックスの解離が生起したことに起因しているのと考えられる。
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