生体内のコラーゲンのほとんどを占めるI型は、同じα1(I)鎖2本とα2(I)の3本鎖が絡み合って三重らせん構造を形成し、種々の細胞の接着、分化等を制御している。その細胞接着部位の同定には、従来、α1(I)鎖のみからなるホモ三量体を用いて行われてきた。 本研究では、I型の細胞接着部位のより精密なモデルを目指して、α1(I)2本とα2(I)1本からなるヘテロ三量体ペプチドの合成を行った。細胞接着部位としてはI型の(433-441)の配列を用いた。まず、α1、α2鎖それぞれを固相法により調製した。その際、α1鎖のN末端には、側鎖にチオエステル基を持つFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)-グルタミン酸を結合した。HPLCによる精製の後、α1鎖の側鎖チオエステル基を銀イオンにより活性化して、α2鎖と結合し、二量体へと導いた。Fmoc基を除去した後、α1鎖を再度チオエステル基の活性化により結合し、Fmoc基を除去した。ついで、HPLCにより精製し、目的とする(α1)2α2のヘテロ三量体を得た。 得られたペプチドの立体構造をCDスペクトルにより解析したところ、トリプルヘリックス構造に特徴的なスペクトルが得られた。また、立体構造の熱安定性を224nmのモル楕円率を指標にして解析したところ、35℃付近に転移点を見いだすことができた。この結果より、目的物は、天然のI型コラーゲンと同様の構造を形成しており、細胞接着部位のモデルとして有用であることが示された。今後、このペプチドの細胞接着性を解析し、従来のα1(I)鎖ホモ三量体で行われてきた結果と比較し、細胞接着におけるヘテロ三量体の影響を解析する予定である。
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