近年、コラーゲンは、細胞の接着、増殖、分化などの細胞活動のコントロールに関与していることが明らかとなってきた。生体内のコラーゲンのほとんどを占めるI型は、同じα1(I)鎖2本と、α2(I)鎖の3本鎖が絡み合って三重らせん構造を形成している。従来、I型コラーゲンの細胞接着部位の特定には、α1(I)鎖のみからなるホモ三量体が用いられ、(433-441)など幾つかの配列が候補としてあげられてきた。しかし、細胞がコラーゲンの立体構造を認識して接着しているとすれば、ホモ三量体ではなく、実際のI型コラーゲンと同様ヘテロ三量体に対する接着能を評価する必要がある。 昨年度の本研究では、細胞接着部位(433-441)のより精密なモデルとして、α1鎖2本、α2鎖1本からなるヘテロ三量体の合成を行った。そこで、このペプチドのマウス繊維芽細胞L929に対する細胞接着能を解析した。まず、ペプチドを30℃で96穴のプレートに0.1μM〜50μMの濃度で吸着させた。ついで、L929細胞を1プレートあたり2x10^4個加えて1.5時間吸着させた。その後、プレートに吸着した細胞数をMTTアッセイ法により計測した。同様の実験を市販のI型コラーゲン、(Pro-Hyp-Gly)_6についても行った。その結果、市販のI型コラーゲンは、0.01μMの低濃度から強い吸着が見られたのに対し、(433-441)の配列を含むペプチド、(Pro-Hyp-Gly)_6は、50μMの高濃度に至るまで、接着した細胞数は、I型コラーゲンの10分の1程度であった。以上の結果から、Barnesらによって指摘されているように、この部位の細胞接着能については、再検討を要する結果となった。今後、他の細胞接着部位についても同様にヘテロ三量体を合成し、その細胞接着能を検証して行く予定である。また、その部位を用いた新規の人工皮膚への応用もめざして行きたい。
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