研究課題
本研究計画は、遺伝子組換えと核移植・クローン動物を応用して、感染症のリスクが無い安全な排卵誘起剤(性腺刺激ホルモンeCGおよびhCG)の生産システムを開発しようとするものである。性腺刺激ホルモンは二つのサブユニットからなる糖タンパク質で、しかも糖鎖が活性に大きく影響を与える。このことから、従来の遺伝子工学的手法を応用しても、活性がある組換えタンパク質を大量に安定して生産することが不可能であった。しかし、我々は、ウマ(eCG)では糖鎖を除去すると卵胞刺激作用がむしろ増強すること、さらに、eCGの二つのサブユニットをコードする遺伝子を連結し、融合組換えタンパクとして発現させても活性が保たれていることを明かにしてきた。すなわち、大腸菌を利用しても活性のあるeCGを生産するシステムを樹立することが可能である。これに対して、糖鎖が活性発現に不可欠なhCGの場合は、遺伝子操作を施した細胞を利用した核移植クローン動物による産生システムが最適である。本年度はこれらのシステムの基盤整備となる基礎研究を行った。まず、大腸菌の小スケール培養系によるeCG発現誘導の条件設定を行うとともに、動物個体でhCGを発現させるのに適したプロモーターの探索を行った。また、形質転換細胞の作出および核移植によるクローン動物の作製に備え、東大附属牧場において、ウシ耳由来線維芽細胞の培養を行い、その核をウシ未受精卵に移植しin vitroで発生させるまでの一連の技術を確立した。