研究概要 |
これからの生命科学は生きた状態の細胞や組織中での生理機能物質のネットワーク解析が重要である。この点から考えると生体の可視化技術はバイオ研究においてキーテクノロジーとなる。我々は個体や細胞の可視化解析を行う手段としてMRIに注目している。MRIは、三次元的画像の断層撮影法であり、主に水分子の水素原子核に対するNMR現象を利用している。MRI画像の感度向上のために近年MRI造影剤が注目されている。一般にMRI造影剤としてはGd^<3+>錯体が用いられているが、これはGd^<3+>に配位した水分子の水素原子核に対して強い縦緩和時間の短縮が現れ、強いMRIシグナルが生じることを利用している。 我々は、今年度の本研究において個体や生細胞内に応用可能なZn^<2+>に特異的に応答してMRIシグナルが変化するMRI造影剤の開発に成功した。 具体的には、Gd^<3+>の8配位キレーターとして知られているDTPA (Diethylene-triaminepentaacetic Acid)に、Zn^<2+>と高い選択性で配位するTPEN(N, N, N', N'-tetrakis(2-pyridyImethyl)ethylenediamine)構造を導入したキレーターを合成し、Gd^<3+>と錯体を形成させた。この錯体を水溶液とし、その水分子の水素原子核における縦緩和時間を測定した。この錯体の水溶液の縦緩和時間を測定しR_1値(mM^<-1>sec^<-1>)を算出したところ、Zn^<2+>の添加によりR_1値が用量依存的に減少した。さらに、この錯体の水溶液に生体内に豊富に存在する金属イオンであるCa^<2+>とMg^<2+>を添加し縦緩和時間を測定したところR_1値の変化は見られず、Zn^<2+>に高い特異性を示した。 今後、上記の造影剤開発原理に基づいて重要な各種生理活性物質の機能性MRI造影剤を開発することを検討する。
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