研究概要 |
本年度は研究計画の第1年度に当たるため、金融取引に対する国際課税上の論点分析に関する基礎的調査として、既存のOECDモデル租税条約を中心に、さらに、投資媒体としてのNPOや取引手段としての電子商取引などについても、金融取引から見た問題点も整理し、文献収集、分析、ヒアリング等を行い、研究途中の論点整理をかねて学会報告やトルコ所在のOECD研修所での講義も行った。その結果、次のような点が明らかとなった。 (1)OECDモデル租税条約をはじめ現実の租税条約において、利子所得や配当所得、使用料所得等の規定上用いられている「受益者(beneficial owner)」の概念の意義については国際的なコンセンサスはなく、また、我が国の政策当局もまだそれについて問題意識をあまり有していない。しかし、企業の資金調達の観点からは、我が国においても、欧州の投資媒体利用した使用料分配メカニズムができているなど、現実の経済においては条約適用のキー概念としてみるべきこと。 (2)宗数法人や学校法人などの所得課税上公益法人とされる法人の他、非営利活動を目的とする団体の国内的な所得課税の方法については各国で、1)一種の補助金として、あるいは2)活動の性質そのものから、営利法人よりも,課税ベースが狭かったり、適用税率が低く設定されているなど、一定の,優遇措置を受けている。しかし、そのような租税法上の法人分類が国によって異なるために、自国で優遇措置を認める団体が相手国で優遇措置を受けられないこと等により二重課税が生じたり、そもそも租税条約の適用を受けられない場合がある一方で、スポーツ団体ではテレビ放映権料が全世界的に管理され団体所在地国で課税されないなどの問題が生じている。利子、配当の他使用料についても投資媒体とリターンとの課税上の整合性を検討する必要がある。 (3)国際的な電子商取引に対する所得課税の最大の論点は、財やサービスが電子的に引き渡され、決済も電子的に行われる場合であり、金融取引は仕組みのみならず取引の手段自体についても大きな問題を生じている。しかし、OECD等もまだ具体的な対応索を明らかにしておらず、早急に検討を加える必要がある。 これらはいずれも金融取引の仕組みの多様化に伴って生じる問題点であり、来年度の主な研究対象である。
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