1.平成12年度は全研究計画の第2年度に当たり、昨年度の基礎的資料調査、文献収集を前提に、引き続き資料調査や文献収集を行うと同時に、産業界、行政当局などとの意見交換や各種研究会への参加などを通じて、我が国における金融制度と課税の関係についてヒアリングを実施し、現在までの研究状況について研究発表を行う機会を得た。 2.我が国が締結する租税条約には利子、配当及び使用料所得について、その受益者が居住者である場合にのみ源泉地国での条約上の軽減税率の適用を認める条約があるが、その他の、例えば日米所得税条約においてはそのような受益者概念は用いられておらず、我が国の租税条約の間で適用要件に齟齬があり、それを利用したトリティ・ショッピングの可能性があることがわかった。また、現実の租税実務においては、我が国商法上の匿名組合を用いた投資スキームが、条約上の規定の欠如を奇貨として、もっぱら租税回避目的で利用されているのではないかと思われる例が現れるに至っているが、課税当局は必ずしも受益者概念で論点整理を行おうとしているわけではないことが明らかになった。 3.また、近年のインターネットの民間普及に伴い、証券金融取引をネットワーク上で勧誘・実行する例が現れている。しかし、そのような取引について、外国のファンドを用いた場合に、電子取引として行うことと、従来からの窓口販売委託を国内金融業者に委託して行う取引との間で、租税条約の適用の可能性が異なるのではないかとの疑問を抱くに至った。この点については、来年度の研究過程においてさらに分析を加えたい。 4.年度後半からは、経済産業省(通商産業省)において、個人金融取引に対する課税のあり方について及び国際課税上の直接投資に関するそれぞれの勉強会・研究会に委員として参加し、もっぱら国際課税の観点から論点整理を行う機会を得た。その際の、基礎となる資料については、昨年度及び今年度の本研究で得た資料が活用されており、また、これらの勉強会での議論の中で、他の租税法研究者、財政学研究者、官庁実務家、企業実務家などとの意見交換を行っており、(1)株式市場のてこ入れに税制を活用しようとする声が企業実務家のみならず官庁実務家の中にも散見されること、(2)その場合、税制は経済規制制度の一つとして理解されていることなど、本研究での基本的問題意識とは異なる議論に接し、税制の社会での位置づけというより根元的な問題意識を重視する必要性を本研究にも取り入れようとするきっかけとなった。
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