本研究は、乳幼児の主たる生活環境の場である幼稚園・保育所の室内について、その音環境を定量的に解析することにより、乳幼児の快適環境としての保育室内音環境を明らかにすることを目的としたものである。 平成11年度は作業仮説1)に関わって乳幼児のコミュニケーションを支える音場としての室内がその仕様状況によってどのように変動するか、従来型の園と新しく設計された先進的な園について日本及び台湾で実際に測定を行った。その結果、開口部の大きい共通部分がもたらす音の流れの設計的な処理が重要であることが示唆された。更に作業仮説2)について平成11年及び12年度にかけて、乳幼児・教師・保母が快適と感じる室内の音環境モデルはどのようなものかを知るための取り組みの一つとして、アンケート及び聞き取り調査を行った.このアンケートは日本、台湾、スウェーデン、カナダで実施した。この結果から作業仮説3)「通常の保育の中での活動内容・形態と乳幼児の行動などの関連を解析する」ための素地となるデータを作成した。現時点でのアンケート解析から明らかになったことは以下の通りである。まず、日本・台湾で行った保育室内の環境音測定結果を見ると、その値はほぼ同様で「騒音」的環境であるものの、日本の保育者は子供の声をはじめとする保育活動に関連する音について、「うるさい」と捉えることに消極的な傾向見られた。これは、具本的な音への不満があるものの、教育的配慮から表面上は「騒音」と捉えることへのはばかりがあることを示唆している。一方スウェーデンの保育園室内の測定値は、日本・台湾を大きく下回る値であり、室内の音環境は静かであるにもかかわらず、遊びの中で「子供の声が充分保育者に届かない」可能性もあることを指摘し、室内の環境音が教師と子供の音声的な相互作用に強く関わっていることを示している。また、カナダでも同様な指摘があった。これらのことから、保育室内の快適な音環境を決定するものとして、教育や文化的背景による室内設計の違いばかりでなく、保育室内の形態の違いや室内の仕上げ素材の差異、室内での保育活動のあり方の違い、子供の人数の多少が最も影響を与えるものであることが明らかになった。また、教師の「騒音」に対する意識の違いも重要な意味を持つことが示唆された。
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